【ブックガイド】Bestiaire (Écrits et Croquis 3)
Bestiaire (Écrits et Croquis 3)
(La Bibliothèque des Arts/Société d'études töpfferiennes, 2004)
ISBN: 288453119X
テプフェールの動物戯画を集めたスケッチ集です。「文章とクロッキー」シリーズの第3巻として刊行されたもので、「ロバ、犬、そして怪物」という副題がついています。現在でも新刊で入手可能です。(ちなみに第1巻は小説集、第2巻は戯曲集)
動物だけでなく、人物のカリカチュアや、鳥人や獣人などの奇妙な怪物キャラクターにいたるまで、自由奔放な落書きが収録されていて、テプフェールのイマジネーションの幅広さを実感できる興味深い本です。
この本をぱらぱらめくっていた時に、面白いものが見つかりました。フキダシです。
テプフェールは、まんが作品にはフキダシを用いませんでした。しかし、フキダシは中世から存在する表現で、テプフェールのすぐ前の世代の風刺画家たちも度々用いていました。テプフェールがその存在を知らなかったとは思えません。むしろ、知っていながらあえて使わなかったと考える方が自然です。それを裏付ける重要な絵が、この本には収録されていたわけです。
一般に、まんがの歴史を記述した文章を読むと、テプフェールの作品には「まだ」フキダシは用いられていない、と記したものを見かけることがあります。この「まだ」は、誤解を招く表現です。
テプフェールは、自分のまんが表現にはフキダシは不要である、あるいは、ふさわしくないと考えて、使用しなかったと考えるべきでしょう。フキダシは、このように「落書き」レベルの表現には用いられていても、きちんとした「作品」では、排除されていたのです。
現代のまんがを完成型と考える素朴な発達史観に立っていると、物事を見誤ることがあります。フキダシなどという「卑俗な表現」(と考えられていた)を濫用するようになった20世紀以降のまんがを「発達」と考えるべきなのか、それとも「堕落」と考えるべきなのか。もし18、19世紀の風刺画家に訊ねたら、「堕落」と答えるかもしれません。
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